妄想のレッスン

fleurette2010-11-12



 喉がヒリヒリする。風邪の引き始めはいつも決まって喉からだ。そして鼻(水)で終わるのが常。わかっていたから、この間うがい薬を買ったばかりなのに。かつての悪夢のような出来事がふと脳裏をよぎり、全身がわなわなと震えた。
 いつだったか両方の扁桃腺を化膿させ、表面が真っ白になってしまったことがある。40度の高熱。這うようにして病院に行き、なぜもっと早く来なかったんだ、と内科の医者に怒られた。そして点滴と薬。
 次に私を襲ったのは滝のように垂れ続ける鼻水だった。いったい何箱のティッシュを消費しただろうか。かみすぎて鼻の下は赤く爛れ、穴の入口付近はヘルペスのようにピンク色に隆起して(鼻毛の)毛穴を際立たせていた。
 こうなると今度は耳鼻咽喉科の出番だ。医者はまだ残っていた扁桃腺のザラザラした表面の穴に埋もれた無数の白いプツプツと、鼻の穴の奥までを舐め回すように顔を上下左右に動かしながらつぶさに観察し、そしてこう言った。

「この鼻は、外人の血が混じっているな」

 そんな話は父方からも母方からも聞いたことがありません、と言ったが無視された。実際若い頃の父は娘の私から見ても非常にバタ臭い顔をしている。

「よし、今日は他に患者もいないし、普段はやらない特別な治療をしてやろう…」

 そう言って不敵な笑みを浮かべ、私の視界から消えていった。数分後、戻ってきた医者の手には大きな…


― 終わり ―