初対面


 帰宅し、久しぶりにカップヌードルを食べた後、いつものようにチャコ誘導用のドッグフード一式を持って外に出る。昨日、車で帰る途中にチャコと会うポイントの横道に視線を向けると、道路の真ん中にチャコらしき影が見えた。私を(正確にはご飯を)待ってるんだ!と、思うとゆっくりご飯を食べる気もしない。

 私の車でアパートから死角になる実家の庭先まで誘導。予め用意しておいたトレイに半生タイプを細かくすり潰した誘導用のドッグフードと二種類の生タイプのドッグフードを入れてスプーンで掻き混ぜて食べさせる。これはケンブが生きてた時のご飯より贅沢だ。子犬たちが何処かにいるはずだから、オッパイがいっぱい出るように、という気持ちもある。


 そして今日!ついに!


 私を待ってるに違いない、という逸る気持ちで向かうといつも出会う所よりずっと手前の曲がり角の街灯の下にチャコがいた。え?こんな所まで出て来て待ってたの?と思い近づくと、いつもと様子が違う。チャコの後ろで、何やら鳴き声が聞こえる。そこはゴミ集積所の前。子犬だ。が、私に気づいたチャコは子犬にお構いなしで近寄ってきた。


「あれ?お前の子じゃないの?」


 とりあえず、オッパイをあげるためにもご飯が先か、と家まで走る。チャコはしっかり着いてきた。ご飯を食べ終わったのを見届け、チャコより先にさっきの子犬の元に走っていった。

 静かだ。誰かが連れ帰ったのかもしれない、と思いながら近づくと、ゴミ集積所のコンクリの壁にピタッと張り付いている丸いものが…。猫?後ろにチャコの気配を感じながら、頭が見えないほど丸くうずくまっているものに両手を伸ばし恐る恐る抱き上げると、さっきの子犬だった。チャコそっくり。


「どうしたの、お前?」


 置き去りにされ、途方に暮れていたのかとても淋しげな顔だった。寒かったろうに。ケンブを海でみつけた時より赤ちゃんだ。どうしよう、連れて帰ろうかな、と思っていると、後ろにいたチャコがたちまち吠え出した。今まで吠えられたことなんてなかったのに、子犬を守ろうと必死だ。慌てて、やっぱりチャコが産んだ子犬なんだと確信し、チャコの元に返した。

 何処に連れ帰るんだろうと思っていると、目の前のお宅の玄関先に子犬を押しやってるように見えた。が、近づこうとするとチャコがえらい剣幕で吠え立てる。その家で飼っているワンコも一緒に吠え出した。ハイハイ帰るよ、とその場をちょっと離れたすきに門の開く音がして、気になって遠巻きに見ようと戻ると気づいたチャコが近寄ってきてまた吠え立てた。しかたなく諦めて帰ることに。

 そう言えば、ご飯誘導であの家の前を通りかかり、その家の人が外に出てきたようで駐車場のセンサーライトがついた時、チャコがなかなかそこを離れようとしなかったので珍しいな、懐いているのかな?と思ったことがあった。でも、その時は別の家の敷地内(軒先とか)に身を寄せているのかなと思っていた。

 まあ、門の開く音が聞こえただけで、本当にその家で親子共々保護してもらっているのかどうかは、まさに闇の中だったからわからないままだが。一度帰った後、もしまたあのゴミ集積所の前でうずくまっていたら…、と気になって再び出かけてみたが、ふたりの姿は何処にもなかった。チャコはしっかりお母さんしていたんだな。よかった。