プチ旅行顛末記-1


 14日の午後2時静岡着。十ウン年ぶり。チェックインにはまだちょっと早かったのでお茶をしてからホテル入り。荷解きをしバッグを軽くしてから東静岡へ。駅についてから目の前の富士山に釘づけ、写真を撮る。

 考えてみたら静岡で芝居を観るのは初めて。劇場は円形でかつて勤めていた所にそっくりだった。友人が用意してくれた席は前から三列目、上手の中央寄りで友人がよく見えた。今回の『忠臣蔵』は討ち入りすることになるまで内蔵助たちの葛藤を軽妙なセリフにのせてショーアップしたもの。言葉の巧みさ、恐れ入りました、と。


 公演が終わって劇場内が明るくなり振り返ると、なんと利賀村で相部屋になったご婦人が。追いかけて行って挨拶し、その後一緒にトークショーを見たのでした。この方とはまた別の公演でも一緒になりそう。ま、私が芝居を観にいけばの話なんですが。

 その後出演していた友人に一緒にご飯を食べようと言われていたのだけど、忙しそうだったのでそれは遠慮した。初日だし、公演はまだ続くし。昔、公演期間中に役者二人に飲みに誘われて早く帰るように促しながらも、結局空が明るくなるころまで談笑してしまって、その日の午後の稽古にそのうちの一人が寝坊してしまい顔面蒼白で走っている姿を見かけてものすごく責任を感じた苦い経験がある。なもんでちょっと話して挨拶して別れ、夕飯を食べてさっさとホテルに戻り明日の三保の松原行きの準備をした。


 15日は9時前にホテルをチェックアウトし清水へ。自転車をレンタルしてチャリ三保(さんぽ)号に乗るのだ。清水の駅を出て港の方へ向かっていくもレンタサイクルの看板が見えないので駐車場で警備をしていた人に場所を聞いた。お礼を言って歩き出してしばらくするとその方が走って追いかけてくる。交代の時間になったのでわかりにくいから案内すると。ありがたや。手続きを済ませ9時45分の発の船に乗ると、他に2台の自転車が積まれてあった。30代の男性のマウンテンと60代の男性のロード、そして私のママチャリ。船の上からも富士山をこれでもかというほど撮ってしまった。


 三保半島到着後は爽快にペダルを漕いだ。この日のために買った3WAYのバッグはリュック使用、イヤマフ、グローブ持参。寒いかなと思ったけど晴天で風もそれほどなかった。富士山だけでなく、ススキの穂は太陽の光を浴びてキラキラ輝いていたし、一輪のスミレだって見逃さなかった。絶好調!と思っていたのに、私はまたやってしまった。景勝、三保の松原で。ううう、書けない。その昔、ペンザンスのB&Bのバスルームを水浸しにしてしまったことは旅日記で公開したことがあるけれど、これは…、ちょっと。ドジ過ぎて情けなくて恥ずかしい。とにかく清水の皆さんはとても親切で、次郎長親分みたいに義理と人情の方ばかりでとてもお世話になりました。ありがとうございます。


 そんなこんなで予定していた電車には乗り遅れてしまい二時間後のワイドビューかじかわ(二時間に一本しかない)で甲府入りすることに。身延線に入って目の前に富士山が迫ってくると、おお、近くにこんな山があったら登らずにはいられないよなあ、なんて思いながら、車内から一人バチバチシャッターを押しまくったのでした。富士山が見えなくなってからも、車窓からの景色に一人わくわくしていたのですけど、完全に日が落ちて真っ暗になってしまってからは乗り遅れたことが本当に悔やまれてましたが、しかたがない、よい教訓になったことだけは間違いありません。

 予定していた旅館の送迎バス(山の麓でバスは朝夕に一本ずつしかない)に乗れないことは電車に乗る前に連絡していたのでそのままタクシーに乗り込み運転手さんとおしゃべり。歴史に全く詳しくなくて今回はあまり下調べもしなかったのだけど、武田神社の説明を聞きながら、運転手さんの口から父方の祖先の名が出てきてびっくりしたり。初めて甲府にきたのだけど、何か導かれてきたのかもしれませんね、とか。


 旅館について洋室シングルの部屋からの夜景は色とりどりできれいで、すぐ浴衣に着替えて露天風呂に向かった。ムべの棚の下(男湯はアケビだそうです)の露天風呂は外気の冷たさのせいもあるのかもしれないけど温度が低めで、私には気持ちよくこれならずっと入っていられるなー、なんて思いながら甲府盆地の夜景をぼんやり眺めたのでした。


 続く。