『パリ、テキサス』


1984
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:サム・シェパード
出演:ハリー・ディーン・スタントンナスターシャ・キンスキー、ディーン・ストックウェル、ハンダー・カーソン


孤独に憧れる男性が好みそうなラブ・ストーリー、と思った。


決してキライではないけれど、男性の視点からの「男の繊細さ」がこれみよがしな気がして。演出が過剰なのでも、役者がオーバーアクトなのでもない。むしろハリー・ディーン・スタントンは押さえた演技でうまくはまっていたと思う。そのせいなのかな。男に纏わりつく暗い陰、万年凍土の下の奥底で燻っているマグマの噴出、そんな感情を抑制できずにひたすら歩き続ける姿がやけに生々しくて。正気を失いかけるほどに何かにのめりこめる人間ってのは、不幸であり、そしてある意味「最強」。


この男にとっての救いは、失踪した妻との再会ではなく、子どもとの再会だ。彼なくして、正気に戻ることは有り得なかった。そして愛情深い弟夫婦の存在が、この映画全体を優しく包み込んでいる。かつて男が妻に向けた自己陶酔に似た激しい愛情とは一線を画した、穏やかな愛情もそこには流れていた。