アンナと過ごした4日間

fleurette2009-11-07



2008年 フランス=ポーランド
監督:イエジー・スコリモフスキ
出演:アルトゥル・ステランコ、キンガ・プレイス


まず最初にこの映画を見た時に思ったのは、似たような日本映画があったよな、ということ。思い出したのが、内田裕也主演の『水のないプール』だ。記憶が定かではないが、妻子ある中年男がクロロホルム若い女を眠らせ、まあ体中を観察した挙句そのうち自分の存在を知らせたくなったのか朝食を作って帰るという、実際にあった事件を基に作ったらしい。

が、この映画はもっと切実だ。主人公レオンの想いが痛々しい。純粋であればあるほど、現実的に一歩先に進むことによって失ってしまうかもしれないささやかな喜び(あえて喜びといっておこう)、祖母を失ってしまった男にとってそれを失うことは「完全な孤独」という絶望だけだ。

ボタンつけがなんだ、バースディパーティで友人たちが帰った後一人酔いつぶれてベッドに寝ているアンナの部屋に忍び込んで、正装したレオンがあたかもパーティ参加したようにふるまったからといって、そこは笑うところなのか?
監督のユーモアだとでも?そんなことしか思いつかない男もいるのだ。そして、パーティの後、一緒にベッドで腕枕をして寝てくれる恋人もいないアンナもまた孤独な女なのだ。

こういうシチュエーションだけ見て笑える人って速読のインテリが多いような気がしてならない。『許されざる者』を見た時だったかな、初めて人を撃ち殺した若いガンマンが強がって言ったセリフだけを聞いて笑い出した友人がいたんだよなあ。私はそのガンマンがもう心の中では初めて人を殺してしまった罪悪に打ち震えて今にも泣き出しそうに見えたもんだから、びっくりして「ここ笑うところかよっ!」って、思わずスクリーンではなく友人を見てしまったのだ。

まあ、今回もそんなヤツらがおりまして(後ろに座っていたバカタレ中年男)、私の背もたれを何度も蹴るというか、押したり引っ張ったりという衝撃を与えてくるので、イライラしてしまって集中して見ることができなかったことが悔やまれる。そのため、レオンが監獄で2人の囚人にアンナがされたような暴行を受けるシーンがあるのだが、その時間軸がいまいちわからなくなってしまった。

確か病院に雇われていたとき、院長の言葉から既にレオンが服役後であったことはわかったが、それがアンナに起こった事件の前なのか後なのかがイマイチわからない。アンナのレイプされているシーンを見て自分がそれ以前に服役中にされた忌まわしい過去を呼び起こさせたことが、アンナに対する異常な行動を増幅させたのか…。

モルドバル監督の『Talk To Her』とか、私の近年一番好きな映画であるソルディーニ監督の『風の痛み』なんかも容易に思い出されるんだけど、うまくいくかどうかはやっぱ二人のバランスがいろんな意味で取れてるか否かにつきると思う。アンナとレオンの場合は微妙だった。裁判でレオンが言った「愛です」という言葉を聞いた時の、あのアンナの憎しみに満ちた嫌悪の表情。一転して面会に現れたアンナの「やっぱり受けとれない」そういって元の持ち主に返される指輪。いくら孤独な女でも妥協できないものがある。それが「愛です」。いえ、愛=幸福という幻想にとらわれ過ぎて、身動きできなくなった者たちの哀しい愛の姿です。

一方的な想いだけでは決して「愛」とは認めてもらえない、そういう現実をラストの高くて長い薄汚れた壁が象徴しておりました。