ディアナの説教
この間散歩した時に見た月は、真ん丸で白くて、兎の耳のカタチがハッキリわかった。
そのことを思い出して、部屋の明かりを消しベランダに出ると、重たそうな雲が広がっていて何も見えなかった。
封の開いたまま何ヶ月も放置されていたハーフサイズのピアニッシモ・フラン。中に残っていた3本のうちから1本を取り出し、戸を開けたまま足だけベランダに投げ出して座り込み、放置した日以来の眩暈を受け止めた。やっぱり体質的に合わないし、何より美味しいと思わない。なのにこうしてたまに吸いたくなるのは、そのマズサが神経を麻痺させ落ち着かせてくれるからなのか。
夜空のそれと吐き出す煙が目の前のキャンバスで混じり合った時、月が鈍く発光して、わたしはここよ、と所在を主張した。
いやいや、今はあなたに興味ないから、せめてお星さまをいっこ見せてよ。
あいかわらずわがまま。ほら、どうぞ。
目の前のキャンバスが少しずつ変わってゆく。雲がどんどん薄くなって、真ん中に水溜まりみたいな青黒い小さな空が現れ、その中に、最後まで落ちずにしがみついて小さな火花を散らすあの終わりそうな線香花火みたいな、頼りなさそうな星が一つ、浮かんでいた。
ああ、あれは私の星だ。
そう思いながら吐き出した濁った紫色のそれは、纏わり付きながら私の呼吸を細かく刻ませ、頬を一筋だけ濡らしていった。
消えないで、という願いは移り気な月には届くはずもなく、厚い大きなグレーの雲がまた動き出した。
おばかさん、あなたもわたしみたいにかわればいいの、それだけのこと。
外に置きっぱなしにしている灰皿に、ゼラニウム用の霧吹きでシュッシュッと二三度乱暴に水を吹きかけ、ベランダの戸を静かに閉めた。消していた部屋の明かりを点けて、濡れた頬を両手で何度も拭っているうちに、そのまま顔のマッサージを始めた。
いくつになっても根っこは野性児のままだけど、なら少しでもキレイな野性児のままでいようと思ったんだ。もちろん、くやしかったから。
あやうく、やさぐれるとこだったワ。