『ブラウン・バニー』(2003)

監督:ヴィンセント・ギャロ


黒いバンにバイクを載せて、次のレースの開催地へ向かう男、バド。その途中、ガソリンスタンドで働く女、ヴァイオレットに「一緒に来てくれ」と懇願する。その瞳の純粋さにほだされ、ついていくことを決めた女。荷物を取りに家に向かう女を呼び止め、すぐに戻っておいで、と愛おしそうにキスをする。ふん、どうせ置いて行っちゃうクセに、と思う私。案の定である。


その後もリリー、ローズとちょっかいを出しては置き去りにしていくバド。その女たちの名前が全て花の名前だというのには理由があった。彼の心に今も巣くうたった一人の女、デイジー。幼馴染みのデイジー、唯一の恋人。彼女の代わりはいないと知っていながら、違う花を捜し求めるツボミ(バド)君。


やがて彼はデイジーと暮らした家に辿りつく。そこは既に空家となっていた。それでもあきらめられないバドはドアにメモをはさんでいく。ホテルのフロントには、ご丁寧にデイジーという女性がやってきたら部屋に通してくれるように電話までする。そして、待ち焦がれた女はやってきた。真っ白い壁に佇むデイジー。既にこの時点で結末を理解してしまった私。


ドラッグ中毒になっていたデイジーが、怪しげなパーティで知り合った男たちとコトの最中に出くわしてしまったバドは、いたたまれずにその場から逃げ出してしまっていたのだ。デイジーの裏切りをどうしても許せなかったバド。女はひたすら男に許しを乞う。以前のように抱きしめてほしい、アナタが愛しい、今も愛していると。そして、二人の狂おしい時間。


男は夢想し続ける。抱きしめる。彼が抱える、一見幼くも見える、純粋過ぎる愛を。


この映画がカンヌで賛否両論あったそうです。否の方では稀に見る駄作だとか。そこまで言ってのける人たちを私は信用することができません。少なくとも、最近観た『アイズ・ワイド・シャット』なんかより、ずっとシンプルに心に迫ってくるのです。