同じ夢を続けてみる


 都心の小洒落たレストラン。カウンターの中だけが白く照らされた照明で、フロア全体は暗いオレンジ色に包まれている。曲線を描くモダンなテーブルの上には、3人分には多過ぎる数の料理が並べられていた。白い皿をキャンバスに上品な量の美しい作品群が、ほのかに揺らぐキャンドルに照らされている。左の席には同僚というには妙にどっしりと構えたところのある、茶色い髪を右分けにしたワンレンの女性で、テーブルに肘を付き前髪が落ちないように右手で押さえていた。食事をしているのではなくて、ずっと下を向いてシステム手帳と睨めっこしている。


「何をしてるの?」

「ああ、ごめん。スペイン語の勉強を始めたの。それで少しでも単語を覚えようと思って…」


 見ると、その手帳にはビッシリと単語が書き込まれていて、6穴の手帳に綴じられるようになっているスペイン語の辞書も置いてあった。これは便利だな、今日はココまでと決めたノルマの分だけを手帳に挟んでおけば、何時でも何処でも見ることができる。が、電子書籍とか電子辞書が全盛な今、珍しいとは思ったがどうなんだろう?まあ、覚えたら丸めて捨ててしまえる潔さはあるよな、と彼女が呟くスペイン語を聞きながら思った。
 ふと鋭い視線に気づいて顔を上げると、右側に座っていた可愛いらしい、ポルノグラフィティのボーカルによく似た男性が「さっきから何やってんのよ、アンタたち」と噛み付いてきた。


「とっとと食べて、次、飲みに行くわよ!」


 が、二人とも一向に食べようとしない。テーブルの隅々まで並べられた料理を前に私は途方に暮れた。


これを一人で食べろと?


 いや、普段の私なら喜んで平らげたかもしれない。なのに何だ、この満腹感は。まだ何も食べていないというのに残すのは嫌だ、かといって全部食べたら大変なことになる。トイレで吐くか、等という考えまで浮かんだが、それじゃ何のためのご馳走なのかわからない。できれば時間をかけてゆっくり食事したい。なのに…。


「早く飲みに行きましょうよ。アタシ、すっごくステキなバーを見つけたのよ!」

「うん。でも、そうしたら、私、帰れなくなっちゃうし…」

「何言ってんの、まだまだ大丈夫よぉ〜」


 おまいら都心に住んでるからいいだろうけど、アタシはド田舎から電車で来てんだよ!


「でも、泊まる所もないしぃ(帰りたい)」


 ポルノの目が爛々と輝き出す。


コ、コイツ、まさかバイ?


 という所で目が覚めてもう一回寝たら、大量の料理を前に途方に暮れ、ポルノが「早く飲みに行きましょうよ。アタシ、すっごくステキなバーを見つけたのよ!」、というところに着地したのでした。


 なんだろう、「ボクも行くぅ〜」と、どこにでもついて来た元同僚で、オカマでありながら女性と結婚した冬彦ちゃんに何かあったのだろうか?(全然関係ないと思う)


 ちなみに、私はある程度夢をコントロールすることができる。寝る前に、見みたい夢のイメージを思い浮かべるのだ。そうすると何かしらかする。

 そしてmixiには「明晰夢」というコミュがある。夢をコントロールしてみたいという方は一度覗いてみるとよい。イメージする、見た夢を思い出す、というのは昔から私もよくしていことだが、更に詳細にその方法が記載されている。
 私は夢を自在にコントロールしたいとまでは思わないので参加はしていない。かする程度でよいのだ。後は自分の想像もつかない方向に自由に飛んでいってくれた方が遥かに面白いから。