今宵のセレナーデ

fleurette2011-06-21



 22時30分、編み戸にしておいた戸をそろそろ閉めようかと遮光カーテンを引くと星が見えた。久しぶりに夜空でも鑑賞しようかと、ウォークマンとタバコと灰皿とキャンドルを用意して部屋の明かりを消しベランダへ。

 相変わらず向かいのアパートは近すぎて私の鑑賞(感傷)を邪魔するけど、気にしないで手摺りに寄り掛かり、タバコの煙を燻らせながら小さい夜空を目一杯眺めた。向かいのアパートに負けないくらい顎を夜空に向かって突き上げて。

 しばらくすると流れ星が一つ、久しぶり!オレンジ色の短い、でもちょっと太めのラインが黒いキャンバスにサッと描かれたと思うやいなやすぐに消えた。これじゃ何も願えやしない。左耳に差し込んだイヤホンからは、エリック・クラプトンの"Change The World"が流れ出していた。


 ああ、神様。もし許してくださるなら、この曲が終わるまでにもう一度流れ星を見させてください。

 そう思った瞬間、何言ってるんだ、許してほしいだなんて、一番嫌ってるセリフじゃないか。ホントに悪いことをしたと思っているなら、謝罪の言葉だけでいい。許しをこうなんて、自分が楽になりたいためだけに出るセリフじゃないか。バッカだなあ、と、また夜空を仰ぐ。

 ……。

 空が何か変だ。何かおかしい、と、思っていると、かすかにくの字のようなものが右から左にゆっくり移動しているのに気づいた。まるで映画『プレデター』みたいに、目をよく凝らして見ると景色の一部だけが動いて見えるような、そんなわずかな違和感だった。雲の向こうの飛行機だろうか? いずれにせよ、私の"Change The World"は、"Layla"に変わっていた。

 二本目のタバコに火を点けると、たちまち気分が悪くなって立っていられなくなる。やっぱりタバコは体質的に合わないんだ。