スイート・アリッサム ― 全て半分


 揺れだした水鏡から離れると、白い魔女は深呼吸のような深い溜息を一つして、猫のような細い虹彩はそのままに、渇いた物憂げな瞳で群青色の空を見上げた。その先に小さく瞬いている七姉妹の星を見つけると、少しばかりの憐れみをもってしばらく眺めていた。


 どうしたものかしら…。


 ふと、年長の魔法使いから教わったまじないの歌を思い出し、ゆっくりと小さな声で祈るように歌ってみた。


 その時がきたと思ったら、ムーンストーンオパール、それから……


 が、歌い終わっても胸の辺りが一瞬チクリと痛んだだけで何も起こりはしなかった。魔女としてまだ半人前だったからそれはしかたがないことだった。が、もう十分だろう、と、魔女は暫くの間この歌を封印することに決めてしまった。封印することで、あらゆるものが、あらゆるものから解放される、そんな気がしたのだ。何よりも魔女自身が解放されたかったのかもしれない。

 金環日食を夢想し出した頃、東の空が明るくなり始めていることに気づいた魔女は、それで漸く自分が人間に近づき過ぎてしまったことを悟った。

 魔女以外、夜はさっさと寝れ。