やっとのハイキング その2


 細い山道を30分も歩くと雨がパラパラと降りだした。幸い木立が天蓋になってずぶ濡れになることはない。レインジャケットを取り出したついでに朽ちた丸太の上にサバイバルシートを敷いてで休憩することにした。時計を見ればちょうどお昼の時間。雨の中で食べたおにぎりは最高に美味しかった。


 ロープを使って登ったのは最初の入口だけであとは比較的なだらかな上りが続いた。私たち以外人はいないし気楽に大声で話しながら歩いた。いつの間にか雨もすっかり止んで明るい光が木々の間から射しこんできた。分岐点に出くわす度、方角的にこっちだよね、迷ったら来た道を戻ればいいんだ、と言いながらも、今度は遠足の中学生が遭難したニュースを思い出していた。

 が、けっこうあっさりと目指す頂上まであと300メートルの標識が現れた。しばらくすると小さな社の屋根が見えてきた。下りていくとちゃんとお賽銭箱まである。財布を取り出しいつものように25円を入れようとするも、ない。せっかくここまで来たんだから奮発して250円にするかと小銭をスカートのポケットに入れた。


 「ジャンボ宝くじが当たりますようにってお祈りしちゃおうかな。いつもは300円だけど10倍の3000円当たるかも」


 笑いながら、財布を戻して荷物を置き、ニ拝二拍手一拝、祝詞を三唱している時、山ガが言った。


 「え〜フルちゃん帽子かぶったままだよー」

 「うわ、忘れてた!ごめんなさーい、私としたことが〜」

 「宝くじが当たりますようになんて言ってるからだよ」

 「うー、また来ます、そして次はちゃんとお参りしますー」


 ぎゃあ、ぎゃあ騒ぎながら日の当たる高台のほうへ行くと、なんと二人の男性が昼食をとっていた。初めて人と遭遇。誰もいないと思っていたのにこっぱすがしい。


 「こんにちは。すみません、場所とっちゃてて」

 「こんにちは。大丈夫です。もう済ませてますから」

 「ああ、フルちゃん、ここ頂上だよ。ほら」

 「え、もう300メートル歩いたってこと?」

 「そうですよね、近いですよね!」


 目を剝いてくいついてきたもんだからちょっと笑って頷いて、それから向きを変えて下界の様子をパシャリ。グレーに染まって海と空との境界が曖昧だ。ちょっと離れたところで水分補給の小休憩。と思ったら、隣で山ガがゴソゴソと何かを捜しだした。来る途中のコンビニで買った一口サイズの団子(4つ入り)だ。


 「あの人たちシューズが違う。走ってるんだ。(団子を差し出して)フルちゃんもどう?」

 「トレイルランだね。(団子は)いらない」

 「なんでよ、ゴマ餡が美味しいよ」

 「さっきおにぎり二個も食べたばかりでしょ」

 「えー、美味しいから一口だけでも」

 「食べられないんだったら残せばいいじゃない」

 「だってジップロックわすれちゃったんだものー」


 結局全部一人で食べて、そのゴミ袋を私のリュックに当然のように詰め込む似非山ガ。意気揚々とメンズに「お先でーす」挨拶し、続く私は軽く会釈したところ「どちらまでですか?」と。「△○山までです」(覚えていてよかった)、「気をつけて」なんて言っていたのにさすがトレイルランの方たち、あっという間に追い抜かれたのでした。


 今度は結構急な下りが続き、つかまる木立もなくおまけに雨ですべりやすくなっていた。


 「下りはね、横向きになって一歩一歩降りるといいよ。そうすると滑らないよ」

 「なるほど!」

 「でね、上りの時は石が転がったりするから初心者には前を歩かせて、逆に下りでは慣れた人が前を歩いその後に続くといいんだよ」

 「あの、私、前を歩いてますが…」

 「初心者に見えないんだよ!」(なぜかキレている)


 しばらくすると、山ガの気配が遠くなっているのに気付いて振り向くと日焼けして黒い顔をいっそう黒くさせゼエゼエ言って立ち止まっていた。


 「どうしたの?」

 「気持ち悪い…。食べ過ぎた、フルちゃんが食べてくれないからだよ!」


 本当に残念な山ガ。



 つづく。(この後更に衝撃の!)