やっとのハイキング その4


 「休もうか!」

 「大丈夫だよ、本当に動けなくならないようにゆっくり歩いているから」



 「なんか塚があるよ。平坦になってきたし、シート敷いて休もう」

 「いいよ、ここなんか蛇が出そうだし…」



  休み休み木立のトンネルを進むと、その先に明るい黄緑色が飛び込んできた。



 「ほら、日の当たる気持ち様さそうな道が出てきたよ。あそこで休もうよ」

 「わかった」


 雨が降ったことなど嘘のように陽射しが強い。日陰になりそうなところは叢で本当に蛇が出てきそうだった。しかたなく道のすぐ横にシートを大きく広げてリュックと姉を転がした。その様はソファに転がっている時と全く同じで、まるでトドのようである。山のトド、珍獣発見。しばらくすると少し傾斜があったため重みでシートごとずれてきて、やがてトドが完全に山道を塞いだ。その様をデジカメで捕獲したけど、さすがにここにアップはできない。一風景写真と言えなくもないけど、下手したら姉妹ですら訴訟問題を引き起こしかねない。



 「あたたたたっ!」



 突然、『北斗の拳』さながらのトドの雄叫び。ずっと立っていたけど腹が捩れるほど笑ってしゃがみこんでしまった。



 「あたたたたたたたたっ!」

 「ぶぅわっはっはっはっはっ!」
 


 山中に賑やかなこだまが響き渡る。



 「お父さん(自分の夫のこと)に迎えにきてもらおうかな〜」

 「あと3キロぐらいだけど、下ってきたから向こうからは上りじゃない。3キロ上ってきてBちゃんを担いで下りることになるんだね。しんじゃうよ」(義兄はガリガリ


 「それで迎えに来てくれたら、遅い〜って文句言っちゃうんだよ(笑)」


 「ひどい〜、何でも言うこときいてくれると思ってー。ホント、あんな義兄さんに育ててくれて仙台のお父さんお母さんには感謝だよ」


 「なんか言った?」


 「感謝しろって。「あんな義兄さん」って表現も微妙だけど」


 なんだかんだとバカ話をして笑っているうちに痛みもおさまり再び歩き出した。やがて下界の遊園地のコースターの轟音が聞こえてきた。


 「もうすぐだね」


 人が一人通れるくらいの細い道の片側にブルーの高いフェンスが続く。反対側は急な斜面だ。やがて人の手の加わった階段が現れ、すぐ下のきれいに舗装された二車線道路に続いた。階段を下りている時にまたパラパラと雨が降り出し、レインジャケットを引っ張り出しながら「いいコースだったね」、「雨のタイミングもよかったね」、「人も少なかったしね」と。駐車場に出て、すぐ義兄に迎えにくるように電話する姉。5分で到着。どんだけ忠実なんだ。


 「あ、靴。新車なのに汚しちゃうね」

 「ん?ああ、いいよ」


 帰りにお風呂に行こうと言っていたので義兄の車に入浴セットを用意しておいたのだけど、姉はすっかり疲れてしまったようで家のお風呂でいいか〜と。いいよ、いいよ頑張ったもん、好きにして、と。到着してから姉と義兄は実家へ、私はアパートへと。


 所用時間ジャスト4時間。200分のコースだから予定より40分しか遅れていない。あれだけいろんなことがあったのに。反対からのコースだったらけっこうキツかったかもしれない。いや、ほんと歩きやすい良いコースだった。

 さて着替えるか、と、スカートを脱ごうとした時、チャリンチャリンと金属がぶつかる音がした。へ?何?と、手を入れると出てきたものは小銭が3枚。250円…。



 「うっそ!お賽銭入れるの忘れてた!!!」



 ちゃんちゃん。(終わり)