一隅を照らそう-2

fleurette2013-10-15



 道場の戸を開けると、現れたのは黒縁眼鏡をかけガッシリした体格の30代と思しき若い御坊様で二階の大広間に案内された。中央に座禅用の座布団がたくさん敷かれて、「好きなところにお座り下さい」と言われる。なので遠慮なく最前列のど真ん中に座らせて頂いた。

 所用時間60分のうち前半は延暦寺の成り立ちを説明して頂いたのだが、その中でも心に残ったのが天台宗の教えだという「一隅を照らそう」という言葉だ。人は誰でも得意とするものがある、それを人のために役立てよう、という意味であると教えて頂いた。確かに皆がそのように思い、実際に行動できれば人も国も豊かになるのかな、などと思ったり。

 後半30分は座禅。腰を固定するために紫色の長方形の薄い座布団を尻の下に敷く。胡坐をかき、その上で両手の四指を重ね楕円を作るように親指の先をつける。集中が切れると親指が離れたり重なったりするそうだ。目は半眼にするため前方の2m先を見るようにするとよいと教わる。無になろうと思ってもなかなかそうはできないので、それなら呼吸の回数を数えてそのことに集中したほうが雑念が払える、腹式呼吸で吸って吐いて一、吸って吐いて二、二十まで数えたらまた一から数える。が、途中で何回数えたかもわからなくなる。


 それにしても、「一隅を照らそう」といい「ubuntu」といい、なんだか最近もっと他者へ思いを馳せなさいと言われているみたいだ、と座禅しながらも雑念はなかなか消えない。それでも集中力はあるほうだし、呼吸法は体が覚えている。ジムでも呼吸を整え一点を見据えて集中しているので体がぶれることはまずない。が、そのうち口の中に溜まってきた唾液を飲み込んだから肩が動いてしまうんじゃないかしら、と思ってその時ばかりはちょっと緊張したがそれでも警策天台宗では違う言い方だったが失念)で打たれることはなかった。

 が、しばらくすると開け放たれた窓から涼やかに流れる風や軽快な鳥たちの鳴き声が心地よく体に沁み込んできて、全く人工的な音のないこの空間はやはり何か特別な場所のように思えてきた。終りに近づいた頃御坊様が私の前に現れた。合掌して一礼し前に交差した腕で肩を固定する。パン、パンと静寂を破った音は私の体には気持ちのよいものだった。これはきっとサービスだ。


 終わった後に軽く雑談。比叡山電車の中にもいろんな野鳥がいましたね、と言うと「ああ、まだありましたか!私、昔、京都に住んでたことがあるんですよ」と。そう、この御坊様はもうずっと山を下りていないのだ。大昔は2000人位山にこもって修行していたそうだけど、今は殆どが通いの御坊様でずっと山にこもっているのは今では7人しかいないとのこと。料金をお支払して「領収証は要りますか?」と聞かれ、「では記念に」と。


 次は東塔。バス亭では缶コーヒーばかり飲んでいた。もうお腹がぺこぺこ。バスに乗り込み二つ目の東塔で降りようと思っていたら、その手前の延暦寺バスセンターの前の大きな売店と「東塔まで徒歩3分」という大きな看板が目に飛び込んできて、まるで誘蛾灯に誘い込まれる蛾のようにふわふわとバスを降りたのでした。まずは腹ごしらえ、お蕎麦を頂く。売店の反対側に出るともう東塔の入口で、まずはすぐ左手の国宝殿に入る。月光観音が素敵だった。大講堂までの緩やかな坂道には最澄だけでなく、日蓮親鸞と言った名だたる開祖がこの比叡山で修行を積んだことがわかる看板が並ぶ。元々は試験に合格し京の都で修行をしていた最澄が、これでいいのかと疑問に思い自分の住んでた裏山にこもって修行をしたのが比叡山延暦寺の始まりであり、そこから宗派を問わず修行の場になっていったとか。



 

 東塔の入口


 大講堂


 「幸福の鐘」一回50円です。


 世界遺産の根本中堂。中に入ったほうがよい景観ですが、当然撮影禁止です。


 座禅の時にお坊さんが教えてくれたのですが、横川中堂は昭和に火事にあって再建されたので一番新しくきれいなのだそうです。そして山の中の斜面に建てられたので清水寺と同じように足場が組まれている造りになっていると。他はだいぶ傷んでいるけれど修繕には莫大な費用がかかるので、少しずつ補修しているそうです。


 16:30に山頂より来た時と同じコースで下山。


 ケーブルカーから比叡山電車に向かう途中の高野川。


 えー、これを書いていて気づいたのですが、坂本エリアがごっそり抜けおちていました。なのでやはり比叡山制覇はできていませんね。何年後になるかわかりませんが、次回はしっかり山ガールならぬ山オバサンの出で立ちで臨みたいと思います。

 ホテルで荷物を受け取り京都駅18:26の新幹線で帰京。指定がとれてよかった。そこからまた特急に乗ってなんだかんだで帰宅したのが23:30。なんとも充実(過ぎる?)した一日でした。回復にはまだ数日かかりそうです。