朝焼けなのか夕焼けなのかわからないセピアカラーの景色の中で煌めいている大きな川。手前には背の高い草に覆われた広い河川敷。それを見下ろす土手に私は立っていた。妹が「ケンブはあそこにいるよ」と指差した先には藁の束を固く組んで作った小屋があった。それに続く細い一本道は緑の草に覆われていてここからは見えない。姪っ子が連れてきたワンコと一緒に勢いよく駆け下りていった。その後をついて行くと小屋から白い犬が出てきた。


 「ケンブ」と姪が呼ぶとゆっくり近づいてきて頭を撫でてもらい、その次に姪のワンコの顔を舐めはじめた。姪のワンコはもうおばあちゃん犬のはずなのに幼犬みたいになっていて、母犬にそうされているようにケンブの顔をじっと見上げながら顔を舐められいた。


 ケンブ


 そう呼んだ私をちらっと見ただけ。


 そして私は、ああ、そうだ、ケンブは死んじゃったんだ、と現実に引き戻され、それと同時に目が醒めた。



 天井がうるんで見え、こめかみをつたった涙が髪を濡らした。その冷たさを感じながら、いい年してバカみたいだな、と思う。


 今は無理だけど、定年になって仕事を辞めたらまた犬を飼おう。引き取り手のない犬、老犬でもかまわない。