十月桜
確かこの時期だった。
山口のとある地方で資料収集のため、忙しいスケジュールの合間をぬってセンセイと私は現地の担当の方に車であちこち案内してもらった。
その帰りに見晴らしのよい駐車場を見つけ、少し休憩を取ることに。車を降りると、たちまち冷たい空気におおわれた。
そんな寒さのなかで、桜の花が咲いていることに気づいた私たちはその風情をしばし鑑賞した。
「ほら、なんかお前みたいだな」
「狂い咲き、ってことですか?」
憮然とした表情で
「俺はそんなことは一言も言ってないぞ!なんでそんなことを言うんだ」
捻くれた奴だ、とでも言いたげな、いや実際言われたのかもしれない。記憶が曖昧だ。
だってまさか本気であの寒さの中で咲いていた桜を私のようだと…?
いや、そんな。「狂い咲き」というオチを先に言われて面白くなかっただけだ。
十月桜を見ると、子どものように拗ねてしまったセンセイの顔が浮かんでくる。