夢の中でも妄想してるみたいデス

ギブス役 マーク・ハーモン



 一人暮らしが長過ぎて、今さら誰かと一緒に暮らすことなど全く考えられなくなっていたのだけど、明け方にこんな夢を見た。


 2DKの古いアパート。昼間だというのにカーテンを閉めた薄暗い居間にかなり年下の(と言ってもけして若くもない)男性と二人でいる。大学院のラボで働いている貧乏学者でオタク丸出しの冴えない男だ。会話も途切れ途切れですぐ沈黙になる。しばらくすると母国語よりも流暢に英語で話しかけてきた。英語が苦手な私は全てを聞き取ることはできなかったけれど、ロシア映画をレンタルしてきたので一緒に見ませんか?、というようなことを言ってるのがかろうじてわかったので、日本語で「うん、いいよー」と言うと、満足そうな笑みをちょっとだけ見せて、また短く英語で話し、私も短く日本語で相槌をうち、そんな状況を「なんか変なの」と思いながらもだんだんそのチグハグな会話を楽しむようになっていた。すると玄関のチャイムが鳴り、出ると大家さんだという年配の女性がニコニコしながら「今月分の家賃の集金に来ました」と立っていた。よく見ると、後ろには妙齢の二人の女性を連れている。


 「二人とも私の娘なのよ」

 「そうですか。あ、そうそう、今度この方と一緒に暮らすことになりましたのでよろしくお願いします」

 (え?聞いてないんですけど。映画を見るだけだったはずでは)


 項垂れて集金も忘れて帰っていく3人の後ろ姿をドアが遮断した後もその場に突っ立ったまま「やられたな、これはあの母娘との縁談話を断るために利用されたんだな」と考えていた。すると居間の隣の部屋から憑き物が落ちてすっかり人が変わったようなさわやかな声で、「映画を見る準備ができましたよ!」と声が掛かった。行ってみるとテレビの前に布団が二組ぴったり隙間なく敷いてある。


 「ナンデスカ?コレハ…」

 「ああ、寝転がって見るほうが楽かなと思って」(全く嫌味なくさらりと言う)

 「そうですか、だったらこうしたほうが楽ですよ」


 布団を半分くらいくるくると丸めて背もたれ作り壁に押し当て腰が痛くならないように枕をクッション代わりに置いた。それを見て「おお!」と感心し、また嫌味ない笑顔を向けてくる。どうやら本当の変わり者らしい。でも悪い人ではなさそうだ。「さっきのは本気ですよ。一緒にここで暮らしましょう。あ、もちろん家賃とかいらないですよ」と、私の収入をあてにしてるわけではなさそう。と言っても充てにされるほどの稼ぎなんて端からないけど。そして気がつくと既に一緒に暮らしていて、その相変わらず薄暗い二人の部屋に私の学生時代の友人が遊びに来ている。そこで私は驚くことに彼女にこんなことを言っていた。


 「ちゃんと結婚することになったら、頑張って毎日ご飯のおかずは最低でも3品は作ろうと思ってるんだ」 


 
 その続きの夢もみたような気がするのだけど、忘れた。それにしても全然タイプじゃない男性と一緒に暮らすという夢にはびっくりした。(今は『NCIS ネイビー犯罪捜査班』のギブス捜査官に夢中!)でも、一緒にいると情が移るというのはわかる。『星の王子さま』でいうところの「なつかせる」ってことかな。

 昔付き合った人が私のことを感じ方、考え方がすごく似ていて自分の半身のようだと言って、前に付き合っていた女性のことに触れて「努力しないといけないような付き合いだったらしたくない」と言っていたことがあるのだけど、確かにそれも一理あるけど、私は男と女がわかりあうなんてことは奇跡に近いことだと思っている。だからこそ相手のために「やってみる」という姿勢こそが愛情なんじゃないかなあ、と今は思っている。「スカボロウ・フェア」のようにね。


 夢で出てきた「おかず3品」がそれだとしたら、なんか泣けるね。いろんな意味で。