Hard Sentimental Journey 3


 宿に戻ると、相部屋の他4人も戻っていた。私よりずっと年配の方たちで各地からそれぞれ一人で観に来ていたようだけど、何年も通っているうちに顔見知りになったのか、青春時代に色濃く影響を与えたという演劇談義をしている時の彼女たちは実に生き生きとしていて、ほんのり紅潮した頬に当時の演劇少女の姿が垣間見えたりした。そんな彼女たちに出会えたことで私もまだまだだとエネルギー充電、とても楽しい時間を過ごすことができ単純に嬉しかった。相部屋という偶然の出会いに感謝。一人を残して5人が翌朝7時のバスで出発ということもあり、午前1時前にはおひらき、皆満足してぐっすりと眠りについたのでした。



 朝食後、帰宅組が宿の裏側にきてくれるバスを待つため小雨の中集まりだした。道路の向こうには川。水が澄んでいるせいか、低い段差のあるところの水が青味を帯びていることがはっきりわかる。スリリングな山道を抜けて八尾の町に到着。あと8時間もしないうちに何万人もの観光客がやってくるとはとても思えないほど、町はひっそりとしていた。天気もすぐれないし予定変更しておとなしく帰るかと、ホームに到着していた電車に乗り込んだ。空いていたボックスシートに座っているうちに、なんかもったいないな、という思いがどんどん膨れ上がって、別の席に座っていた相部屋だった白髪の女性に「やっぱり散策してから帰ります!」と声を掛けると笑いながら手を振ってくれた。駅舎には同じく相部屋だった反対方面の電車を待っていた女性がいた。


「やっぱりせっかくここまで来たし午前中だけ散策することにしました!お祭りが始まる頃まではいられないけど、お祭りの前の雰囲気だけでも味わえればいいかなと思って。」


「ああ、いいわよ!素敵な通りもあるし。あのね、バスで渡ってきた橋じゃなくて、一つ手前の橋を通って行くといいわよ」


「どのくらい時間がかかるかわからないので、バスで中心地まで行ってそこから下りてくるようにすればゆっくり散策できるかなと思っているんです。で、町に人が押し寄せてくる前に空いてる電車に乗って帰る、と」


「かしこいわー!すっごい混むからそのほうがいいわよ」


 褒められて気をよくし、どんよりした空とは対照的に私の心は軽くなっていったのでした。電車を見送り、駅を出るとさっき乗ってきたバスの運転手さんが乗り継ぎの乗客を待っていたので事情を話すと「ああ、いいよ。じゃ曳山会館の前で下してあげるわ。あんたさっきもうお金もらってるから料金はいいからね」と。村と町をつなぐローカルバス、運転手さんはまるで親戚のおじさんみたい。お礼を述べて下車。通りを一つ奥に入ると、飛騨高山のような派手さはないけど落ち着いた街並みが現れた。


続く、のか…。