遠い記憶


 明日、再入院をしていた父がリハビリに専念するため転院することになった。職場から近い病院だから、今度は私が仕事帰りに通うことになる。が、姉のようにかいがいしく父に付き添える自信が全くない。冗談で「今度の病院ではフルが通うことになるから残念だね!」と言うと父は笑っていた。


 姉と二人、父とハイタッチして病室を後にすると、父がベッドから起き上がってエレベーターのことろまで見送りに来てくれた。弱々しいけど何にも頼らず、一人で歩いている父を見るのは久しぶりだ。「またね!」と、もう一度ハイタッチ。


 7月に入院した時は退屈だったらしく母を連れ行くとずっとおしゃべりをしていて、普段喧嘩ばかりしてるのによく話すことがあるなあと思うくらいだったのに、今はなかなか言葉が思うように出なくてきっともどかしく思っていることだろう。

 
 若い頃は嫌な思い出ばかりに囚われていたけど、今は楽しかった思い出ばかりが浮かんでくる。子煩悩な父だったと思う。貧しかったけどお給料日には必ずチョコやプリンを買ってきてくれた。ハイキングや海水浴、山菜取りやキノコ狩り、夏休みには必ず隣県への一泊旅行へ連れて行ってくれた。夏、父が庭で花壇の手入れをしている時、ホースで水をひっかけても、「こらっ」と言って全身ずぶ濡れになって一緒に遊んでくれた。雪が降った夜は父の帰りを待って雪合戦をした。もっと小さい時は三姉妹で父が帰宅して玄関に入ってくると順番に飛びついたっけ。


 私は不肖の娘で、たぶん一番心配をかけている、と思う。とりあえず、これ以上心配をかけることだけはないように、注意して生きたい。