祖母とビックリグミと私


 今日は朝から数年前に買ったエスニック調の暖簾二つを押し入れから引っ張り出しミシンでガガーと縫い合わせ、ベランダに掛けるシェード(目隠し)を作った。我ながらアイデアが冴えまくり小洒落た感じに仕上がった。気をよくしてベランダにミニテーブルと椅子を出し、SADEの"Diamond Life"をかけ、アップルジュースとこの間買った『エデン』にやっと取り掛かった。
 今年もツール・ド・フランスは見られないが、ツールのあの駆け引きや裏事情までよく書けていて、それは私の頭の中で全て映像に変換されたのだった。
 が半分読み終えたところでタイムリミット、今日は天気もよかったので午後からはクレソン摘みに出掛けると決めていた。タオルやらビニール袋やら日傘やらを用意して、車でいつもの場所へ。
 が、着いてみるといつも群生していたクレソンが除草されてしまったのか跡形もなくなっていた。サンダルを脱いで泉から流れてくる冷たい水の中に入ってみると、わずかだが、川辺を覆っていたツタの下(殆ど水の中で流れに身をまかせていた)に僅かばかり発見。キレイな水の中で洗いながら小さい袋に詰め込んむ。

 もっといっばい採れると思ったんだけどな…。

 しかたがない。気持ちを切り換えて、日用品のアレヤコレヤを買いに近くのドラッグストアへ。お気に入りのバラの香りの短いお線香がなかったので、途中のホームセンターに寄ってみた。ついでに園芸コーナーでピンクのミニバラも。元気のよさそうな赤いゼラニウムにも手を出しそうになったが、そうすると今あるゼラニウムプランターの土の入れ換えもしたくなってしまう。トイレットペーパーも買って既に両手はふさがっていたこともあり、今回は断念。
 私がこんなにゼラニウムの花が好きになったのは、フランスやドイツの街角の窓辺を美しく飾っていたのが決まってこのゼラニウムだったからだ。乾燥に強く虫がつかないのも、ズボラな私に合っている。
 レジを済ませ帰ろうとした時、1m位の高さのビックリグミに気づいて思わずしゃがみ込んでいた。まだ橙色の大きな実がたくさんついていた。

懐かしい。


 母方の亡くなった祖母の家の庭には大きなビックリグミの木があった。それ以外にも枇杷や桃、金柑、夏みかん、柿、イチジク、葡萄など、これらは全部庭にあったものだが、現在残っているのは夏みかんだけか。
 私はとりわけビックリグミの真っ赤に熟した楕円形の実が大好きだった。一見似たような感じなのに、さくらんぼの甘さにはほど遠いこの不思議な味に強く惹かれていた。キラキラ光っているようにさえ見える。
 夏休みに祖母の家に遊びに行くと、必ずビックリグミの果実酒があって、それは曇り硝子を通してもハッキリと戸棚の中にあることがわかった。ビックリグミのあのあたたかい赤い色が、今は亡き祖母そのものであったように思える。