フェロモンの香り

　香水の類にはまるで興味がないので、これまであまりつけたことがないのだが、聞くところによると、フェロモンとはとんでもなくよい香りがするのだとか。

　何年も前にテレビで、職業別に分けられた５人の男性の剥き出しにされた胸元だけが見えるように開けられたパネルに近づき、数人の女性タレントが匂いを嗅いでフェロモンが強いのは誰かというのを検証？している番組を見た。

　彼女達は一人の男性（ライフセーバーだったかな？）に集中し、「うわぁ〜、いい匂い〜！」と大絶賛。その匂いがどんなものなのか一番気になるところなのだが、如何んせんテレビではそれも叶わず。そんな風に女性をとろけさせるようなコロンができたらすごくない？と思ってた所に、前後してアクシスとかいうのが発売されていたけど、その効果はいかばかり。

　なぜ急にそんなことを思ったかというと、あれが私の唯一のフェロモン体験だったのかもしれない、と、さる方を思い出したから。何年も前、オールナイトの映画を見た時のこと。二本目だったか三本目だったか（とにかく最初の映画ではなかった）が終わって、トイレ休憩から戻り席に着いていると、後から休憩時間をたっぷり使って戻って来た同行者が席に着いた途端、何とも言えないいい香りが漂ってきたのだ。無理矢理例えるなら、天国のお花畑、しつこくない癒しのフローラル系の香りだ。殿方からこんな甘く優しい香りがするなんて！と驚く間もなく、そのあまりの心地良さに全てのガードは解除され、このままこの香りに抱かれて眠りにつきたい…、とウットリ。最後はホントに寝てた。

　映画が終わると、当然だが早朝の街にほうり出されるわけで、さりとて艶っぽい話は微塵もなく、モーニングコーヒーの代わりにラーメンを食べ、各々真っ直ぐ家に帰ったのでありました。

　コロンをつけるような、ましてや持ち歩くようなタイプの方ではないと思うし、女性を口説くのにそんなものなど必要ないだろうと容易に想像つくので、あれがきっとフェロモンの香りに違いない！と。

　ああ、私に貴重（？）なフェロモンの香りを教えてくれてありがとう、か○○さん！とかなんとか、ネ。

　そして昨夜は、それに絡んだ夢を見た。どこか外国（ヨーロッパ）の、海をのぞむ高速をひたすら北上する車の運転席の後ろに座り、窓から流れる海の景色を眺めている。今にも水没してしまいそうな小さい島。壊れて城壁だけになった城が見える。その島を見て私はハッキリと、これはいつか夢で見た島だ、とその時実際に見た夢の断片さえ思い出した。が、その島の国名が出てこない。

「なんていう国だっけ？」

「ウルグアイじゃない」

　運転手が答えた。

　車を運転していたのは昔の上司（*1）だった。ウルグアイって島だっけ？と思いながらも、その言葉は飲み込んで、「ウルグアイかぁ…」とだけつぶやいた。

　運転席からあの甘い香りがしてきて、そんなことはどうでもよくなって、前のシートにうなだれるように上半身を投げ出し、うつらうつらしてしまうのだった。

　その後も夢を見続けたけど、長くなりそうなのでそれはまた別の機会にでも。

（*1）上司はラテン系の小太りのおっさんである。憎めない人ではあるが、恋愛対象にはならん。断じて。